セブンイレブン松本実敏オーナー 準備書面2 -原告の優越的地位と解除事由について-

セブンイレブン松本実敏オーナー 準備書面2 -原告の優越的地位と解除事由について-

2021年5月22日 0 投稿者: konbiniworker

令和2年(ワ)第341号 建物引渡等請求事件(第1事件)

令和2年(ワ)第1187号 契約上の地位確認等請求事件(第2事件)

原告(第2事件被告)株式会社セブン-イレブン・ジャパン

被告(第2事件原告)松本実敏

2021〔令和3〕年1月  日

準 備 書 面 2

-原告の優越的地位と解除事由について-

大阪地方裁判所第25民事部合議1係 御中

上記被告(第2事件原告)訴訟代理人

第1 はじめに~本書面の目的~

  原告は、フランチャイズ契約を締結しているオーナーに対し、「優越的な地位」(独占禁止法2条9項5号参照)にある。このことは、後に詳しく述べる通り、公正取引委員会も当然の前提としている。

実際に、コンビニ本部とオーナーとの間で、数多くの優越的地位の濫用事例やその他独占禁止法違反行為が発生している実態がある(また、依然として発生しやすい状況にある)ことから、公正取引委員会は、後述するように、何度も実態調査を行ったり、ガイドラインを策定したり、具体的な事案に対して排除措置命令を出すなどして、優越的地位の濫用違反をはじめとする独占禁止法違反行為が発生しないように絶えず注意喚起・規制をしているところである。

本件訴訟においても、コンビニ本部である原告が、オーナーである被告との関係で優越的な地位にあって原告による優越的地位の濫用事例が起こりやすい環境にあること、本件解除も優越的地位の濫用そのものであると考えられること、本件解除の有効性をめぐる判断に際してこのような背景を踏まえた解釈論が求められること、を十分に理解する必要がある。

  以下、

を順次述べる次第である。

第2 原告と加盟店との間には、優越的地位の濫用をはじめとする独禁法違反が問題とされる取引の実態があること

1 公正取引委員会がコンビニ本部とオーナーの関係を定期的に調査してきたこと

公正取引委員会は、平成13年10月、コンビニエンスストアを対象に実態調査を行い、その調査結果を報告書にまとめた(乙14)。

   当該調査の趣旨は、コンビニ本部と加盟店間の取引に関して、独禁法上の問題の存在が指摘されているところから、独禁法上の問題について実態を把握することを目的として調査がなされたものである。

 報告書には、様々な取引に関して独禁法上問題になりうる実態が指摘されており、公取委は、本部に対し、独禁法上の問題点を指摘し、開示資料・開示方法の改善及び独禁法順守のための社内体制の整備を行うよう要請した。

(乙14、平成13年度公正取引委員会年次報告、第2部第8章、第8参照)

(2)平成23年7月7日調査報告書(第2回目の調査)

また、公正取引委員会は、前回調査から一定の期間が経過し、本部と加盟者による取引環境に変化が生じている可能性があることや、加盟者に対する独占禁止法違反行為が発生している事情も踏まえて、本部と加盟者との取引実態を把握する調査を行い、平成23年7月7日、「フランチャイズ・チェーン本部との取引に関する調査」という調査結果を取りまとめた(乙15)。

平成23年報告書でも、本部と加盟店との様々な場面での取引において独禁法上問題になりうる実態が指摘されており、公正取引委員会は、本部及び関係事業者団体に対し、本部と加盟者の取引の公正化を推進し違反行為の未然防止に努めること、本部が問題点の解消に向けた自主的取り組みを行えるよう、フランチャイズ・ガイドラインの内容を周知徹底するなど、業界における取引適正化に向けた自主的な取組を要請する等の対応を行った。

(3)令和2年9月2日調査報告書(第3回目の調査)

公正取引委員会は、令和元年9月25日、コンビニエンスストア業界の実態調査を再び行い、令和2年9月2日、同調査に基づき、「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査」の結果を公表した(乙16)。

コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等については、24時間営業をはじめとして、これまでの本部と加盟店との在り方を見直すような動きが生じており、また、前回の調査(平成23年)からも一定の期間が経過していることから、取引の実態を把握すべく、わが国に所在する大手コンビニエンスストアチェーンの全ての加盟店(57524店(令和2年1月時点))を対象とした初めての大規模実態調査を行うことを決めたものである。24時間営業問題についても、初めて調査の対象とされた。

調査は、大手コンビニ8社への聞き取り調査や、加盟店に対するウェブアンケート等を実施し、加盟店からのアンケート回答数は1万2093店(回答率21.0%)となり、過去最大規模の調査となった。

(4)令和2年9月2日調査報告書の内容(乙16)

同報告書(乙16)では、本部の加盟者に対する取引上の地位として、本部に対する構造的な依存関係にあること、取引変更可能性が低い実態があること、加盟者が「契約更新等で不利益が生じること」等を恐れて本部の不当な要求を受け入れている実態があること等(乙16、203頁)から、「本部が加盟者に対して優越的な地位にあると認められる場合は多いのではないかと考えられる。」と指摘された。また、「オーナーは本部からの不当な要求を断りにくい環境にあるとえる」と指摘され(乙16、212頁)、特に本部店舗型オーナーの置かれている現状の厳しさがよく表れており、「本部店舗型契約のオーナーは本部の要請を断りにくい環境にあることに十分に留意して、本部による独占禁止法違反行為の未然防止に努めることが必要である」とまで指摘されている(乙16、212頁)。ここに本部店舗型オーナーとは、本部が貸店舗を用意する形式のオーナーであり、被告も本部店舗型オーナーに該当する。

その上で、コンビニ加盟店の倒産数等も増加している実態、加盟店売上の伸び悩みがあること、人件費の上昇等もあること、5年前と比較して1店舗あたりの年間収入が192万円減少している実態があり、オーナーの約半数が、経営状況が「あまり順調ではない」または「全く順調ではない」と回答していること等が指摘され(乙16、200頁等)、オーナーの厳しい経営環境が指摘された。

その上で、募集時の説明と実際の差異、仕入れ数量の強制等、見切り販売の制限、年中無休・24時間営業、ドミナント出店等、様々な面で、優越的地位の濫用その他独禁法上問題となりうる実態が指摘された。とりわけ24時間営業の問題については、「77.1%の店舗が深夜帯は赤字であると回答していること、93.5%の店舗が人手不足を感じており、62.7%のオーナーが現在の業務時間について「どちらかといえば辛い」又は「非常に辛い」と回答するなど、オーナーの置かれている厳しい現状が明らかとなった」と指摘された(乙16、207頁)。そして、優越的地位の濫用に該当する場合として、「本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められているところ、そのような形になっているにもかかわらず、本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し、加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当しうる」と具体的に整理した(乙16、209頁)。

そして、公取委は、原告を含むコンビニ大手8社本部に対し、本部ごとのアンケート結果を伝えるとともに、直ちに自主的に点検及び改善を行い、点検結果と改善内容を公取委に報告することを要請した。この点は、過去の調査時の公取委の対応に比べて、本部に対して問題解決のための努力をより強く要請していると言える。

(5)令和2年9月2日調査報告書に基づく公取委の要請を受けた原告の対応について

   原告は、令和2年11月30日、上記乙16の調査報告を踏まえて、「公正取引委員会『コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査』を受けての弊社対応について」と題する見解を発表した(乙17)。

   原告は、「実態調査報告書における指摘事項を真摯に受け止め、本要請を踏まえて加盟店オーナー様との取引方法等について自主点検を実施」し、自主点検を通じ「加盟候補者・加盟店オーナー様に対する説明内容において弊社社員間に差異があること、また説明を受ける加盟候補者、加盟店オーナー様の受け止め方や理解度にも差異があることが確認されました。加えて法令およびフランチャイズビジネス等に関する弊社社員の理解度について、一部不十分な点があること等が把握できた」こと等を明らかにし、その上で、「弊社といたしましては、実態調査報告書においてなされた問題となり得る点等の指摘は、これらの確認された課題が一つの原因になったと考えており、この結果を真摯かつ誠実に受け止め、対策・仕組みを適切に講じた上で、問題点に対する持続可能な改善対応を図ってまいります。」と述べた。

   要するに、原告自身、公取委が指摘するような問題点・実態が散見されることを自認しているものと言える。そして、具体的な「改善に向けた対策」として、加盟候補者への事前説明の充実化(例として、人手不足及び深夜休業ガイドライン、深夜休業を検討する場合「深夜休業のガイドライン」に沿った対応)等、様々な対策を実施することが明記された。

(6)コンビニガイドラインの策定

   公取委は、平成14年4月24日、前述したコンビニエンスストア業界の実態調査と並行して、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法の考え方について」と題するガイドラインを規定し、コンビニ・フランチャイズを含むフランチャイズ取引に関する独禁法違反となりうる場合を、類型別に整理している。なお、平成22年、23年と改正をしている。

(7)小括

このように、公正取引委員会は、これまで何度も実態調査を重ね、オーナー(特に被告のような本部店舗型オーナー)は本部の要請を断りにくい環境にあり、優越的地位の濫用をはじめとする独禁法違反が問題とされやすい実態にあること、実際に多くのオーナーに対する優越的地位の濫用等独禁法違反行為が発生している実態があるという問題意識を持ち、当該問題を解決するために、原告を含むコンビニ大手8社に対し自主的な点検・改善を行うこと及び当該点検・改善の報告を求めるなどしている。

   このことからも明らかなように、原告は、被告に対し優越的な地位に立ち、被告に対して優越的地位の濫用をはじめとする独禁法違反が問題とされる実態があることを理解する必要がある。

2 公取委が被告の優越的地位の濫用行為に対して、実際に排除措置命令等を行ってきたこと

   原告は、平成21年6月22日、公正取引委員会から、「見切り販売」の制限に対して、優越的地位の濫用行為であるとして、排除措置命令を受けた。

ここでいう「見切り販売」とは、セブン-イレブン・ジャパンが独自の基準により定める販売期限が迫っている商品について、それまでの販売価格から値引きした価格で消費者に販売する行為のことである。

命令は、「加盟者に対し、見切り販売の取りやめを余儀なくさせ、もって、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている行為を取りやめなければならない」旨を命じたものである。

なお、前述した令和2年9月2日報告書では、見切り販売に関して、「見切り販売は可能だが、かなり時間のかかる方法のためほとんどの店舗が行えない状態」といったシステム上・手続き上の問題点を指摘する報告が、平成13年実態調査、平成23年実態調査に続いて複数寄せられており、システム上の問題が、事実上の見切り販売の制限につながっているおそれがある旨の指摘がなされている(乙16、206頁)。

(2)東京高裁平成25年8月30日判決(判例時報2209号10頁)

   上記排除措置命令に関連して、複数のオーナーらが、見切り販売の妨害行為によって被った損害について、原告に対し損害賠償請求訴訟を提起したところ、裁判所は、「見切り販売を行うことにより契約の更新ができなくなるとの不利益が生ずることを申し向けて、加盟店が見切り販売の取りやめを余儀なくさせている。」という事実を認定した上で、オーナーらの損害賠償請求が認められている。

(3)小括

   このように、原告は、見切り販売の妨害について、優越的地位の濫用行為を理由に、公取委から実際に排除措置命令を受けており、民事訴訟により一部のオーナーらからの損害賠償請求も認められている。

第3 本件解除は、原告の被告に対する優越的地位の濫用行為そのものであること

1 公取委の見解(令和2年9月2日調査報告書)

前述したように、令和2年9月2日報告書(乙16)によると、公取委は、時短営業の問題について「合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず、本部がその地位を利用して協議を一方的に拒否し、加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当しうる。」との見解を述べた。

また、「時短営業に係る協議の要請があった際には、加盟者の立場に配慮した丁寧な対応を行う必要がある。新型コロナウィルス感染防止のための対応も含め、24時間営業をめぐる事業環境が大きく変化している昨今において、このことは特に留意すべきものと考えられる」との見解を明らかにした。

2 原告が被告からの時短営業の要請を拒絶し続けたこと及び被告が時短営業をしたことを理由として解除を通知したこと(平成31年2月1日付)は、優越的地位の濫用に該当することが明らかであること

   加盟店基本契約書第57条(改訂)(甲17)には、「甲は、この契約の各条項に規定される数額が,社会・経済情勢の急激な変動または物価変動の継続による価格体系の変化などにより、合理性を失うに至った場合には、均衡の実質を維持するため、改訂することができるものとし、そのため、この基準値が定められた昭和54年10月1日から5カ年間経過するごとに、乙の意見を聞いたうえ、見直しをするものとする。」と記載され、契約内容の変更を予定している条項が設けられており、また、加盟店付属契約書第5、2(甲18)でも、合意により24時間営業の変更が認められる条項が存在する。

被告準備書面1、第2、4(3)でも述べたように、被告は、妻の生前から、妻が膵臓癌を発症して店舗に立てる時間が限られてきたこと等の理由で、また平成30年5月に妻が逝去した以降は特に、原告に対し、人手不足を理由に時短営業をしなければ経営が持たないという相談を繰り返ししてきた。しかしながら、原告のYDMは、24時間営業を行う契約を締結したのだから従わなければならない等と言うばかりで、被告自身の高齢化、妻の逝去により特に人手不足の問題が深刻になったこと、人件費の高騰等の困難な状況等、様々な情勢の変化により、時短営業の必要性が生じたことを全く聞き入れず、一方的に時短営業の交渉を拒絶してきた。

そして、被告が、平成31年2月1日に実際に時短営業に踏み切った後は、契約違反であることや巨額の違約金の請求を告げるなどして、契約の解除を通知するに至った(甲25)。

このように、原告が被告の時短営業の要請を拒絶し続けてきたことや、時短営業に踏み切ったことを理由に解除通知をしたことは、被告の置かれた経営環境を無視して一方的に被告に不利益を与えるものであり、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」、「相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること」に該当し(一般指定14項第3号)、また「取引実施について相手方に不利益を与えること」(一般指定14項第4号)に該当するものであるから、前記公取委の見解を待つことなく、優越的地位の濫用に該当することは明らかである。

3 本件解除もこのような優越的地位の濫用行為の延長線にあることを踏まえるべきであること

原告は、平成31年2月1日付の解除通知(甲25)は、世論の反発等を受けて、その後撤回したものの、他方で、被告準備書面1でも述べたように、また後述するように、内密に相当な費用と時間をかけて証拠集めを重ねていたことからも明らかなように、被告を排除しようとする意向を固めていた。そのうえで、元日休業問題で、原告にとって世論が逆風となる事態が再び生じかけてきたことから、慎重に相当な催告期間を設けることすらせず、頑なな姿勢で本件解除を強行したものである。

そうである以上、本件解除は、時短営業の要請拒絶・時短営業を理由とする契約解除等の違法な優越的地位の濫用行為の延長線にあり、まさに優越的地位の濫用行為そのものであるという他ない。

つまり、本件解除は、表向きは別の解除事由を繕っているが、実質的には時短問題を発端とする契約解除・被告の排除が背景にあり、まさに優越的地位の濫用の問題が続いていたとみなければならない。

4 優越的地位濫用該当事例は、解除の意思表示が公序良俗(民法90条)違反により無効であること

優越的地位の濫用に該当する本件解除通知は、独禁法に抵触するものである以上、公序良俗に反して無効である。

第4 本件契約の解除事由は限定的に解釈されるべきこと

1 はじめに

  原告は、本件のフランチャイズ契約は相互信頼関係を基礎とする継続的契約であること(訴状、第3、1(2))から、契約の解除が有効とされるためには、フランチャイジーの行為が約定解除事由に該当し、かつ、これにより信頼関係が破壊され、契約の継続を期待しがたい重大な事態に陥っていることが必要であることを前提として(原告第1準備書面、第1、1)、本件契約「第46条第2項第1号及び第2号の解除事由に該当する(甲33の1)」ことを根拠として、本件解除が有効である旨を主張する(ただし、第46条第2項第1号違反について、どの契約条項に違反したかについては明らかにされていない。第2号は「その他甲に対する重大な不信行為があったとき」と規定されている。)。

  このように、原告も認めるように、本件解除が有効とされる場面は大きく限定されるものである。

さらに、以下に述べるように、被告は店舗開店に際して多額の開業資金を投入していることや、被告の経営基盤は原告にほとんど依存していること、解除に際して高額の違約金が設定されていること等のため、契約解除に伴う被告の損失等が甚大になること等の事情から、契約の解除事由は極めて限定的に解釈されなければならず、単に形式的にフランチャイズ契約の条文違反があったからといって解除が認められることは許されないし、「重大な不信行為があったとき」の解釈も、さらに限定的に解釈されるものである。

  以下、詳述する。

2 被告は店舗開店に際して多額の開業資金を投入し、相当長期間の経営を予定していること

  新規オーナーがコンビニ店舗をオープンさせるためには、多額の初期費用が必要である。実際、被告は、店舗開店時に、原告に対する加盟金(金250万円と消費税)を支払わなければならなかった他、机、ロッカー、ファイル等の備品代、商品の仕入れ代金等の初期費用として約800万円もの負担を負った(乙18の1)。このうち、金776万2350円は、開業当初からのオープンアカウントとして計上され、毎月の利益から原告に対して支払いをしていた。さらに、「追加引出金」として、平成26年4月時に金20万2520円(乙18の2)、平成26年5月時に金78万9505円(乙18の3)、平成26年10月時に金52万2820円(乙18の4)が計上されているが、これは、被告が開店した当初のオープンアカウントには計上されていなかったが、原告が負担した備品代として、約20万円(平成26年4月)、約78万円(平成26年5月)、約52万(平成26年10月)、小計金約150万円が、被告の負担として、「追加引出金」として計上されているものである。

  要するに、被告は、優に金1000万円以上の資金を初期費用として投入している。当然のことながらこの負担は、被告及び被告の妻にとって大きな負担であり、被告の家族総力で、人生をかけた開業資金である。

  そして、被告もそうであるように、また多くの個人オーナーがそうであるように、前職を辞めて、オーナーやその家族の今後の人生の生活の糧となる収入を得る目的で店舗開店をするのであって、相当長期間の経営を見通して、店舗開店に至っているし、そのことは原告も当然に認識しているところである。

  このように、被告が店舗開店に際して多額の開業資金を投入し、相当長期間の経営を想定して店舗開店に至っている経緯等からすれば、契約終了原因は限定的とするのが当事者の合理的な意思である。

3 被告は店舗経営の基盤をほとんど原告に依存していたこと

  被告も含めて、コンビニ・フランチャイズ経営をするフランチャイジーは、経営基盤のほとんどを当該フランチャイザーに依存する関係にある。フランチャイザーとのフランチャイズ契約が解除となれば、当然のことながらフランチャイザーの看板を掲げての経営は不可能となり、また、商品供給その他のサービス等も受けられなくなるため、事実上、店舗を閉鎖し、小売業を廃業せざるを得なくなる。被告は、原告とのフランチャイズ契約により東大阪南上小阪店の1店舗だけを経営していたものであるから、完全に経営基盤を原告に依存していた。

  この点、公取委が作成した令和2年9月2日調査報告書(乙16)でも、本部と加盟店は、構造的な依存関係にある実態が指摘されている。すなわち、報告書は、加盟者は本部に対する構造的な依存関係「加盟者は、集客に必要な商標を本部から借りている上、小売業を営むために必要な機能の大半を本部に依存しているほか、大多数のオーナーは店舗を本部に準備してもらっている状況が認められることから、本部との取引がなくなればコンビニエンスストア事業を継続することができないオーナーも多いと考えられる」と述べられ、加盟者は、経営基盤を本部に構造的に依存していることが指摘されている。

  このように、被告が店舗経営の基盤をほとんど原告に依存していたことからすれば、原告との契約が終了すればたちまち被告の経営は持続できなくなるのであるから、被告と原告の契約終了原因となる解除事由は限定的に解釈されるべきであり、それが当事者の合理的な意思解釈である。

4 契約解除に際して高額の違約金が設定されていること

  原告と被告とのフランチャイズ契約第48条第1項では、契約解除時に、加盟店は、過去12か月分の実績に基づく6か月分の売上総利益の50%相当の金額を違約金として支払うべきものとされている。本件では、同条に基づき、原告から被告に対し、実に金1450万8024円もの違約金が請求されている(甲57の1ないし2)。

  被告のように、家族経営によって1店舗(ないし少数店舗)を経営するフランチャイザーにとっては、かかる違約金の請求は死活問題であり、極めて甚大なダメージを負うことになる。

  この点、前述した公取委の報告書(乙16)でも、取引先変更可能性の低さが指摘されている。すなわち、「コンビニエンスストア業界では他の業態に比べて契約期間が長い傾向にあるほか、オーナーの大半は資金力のない個人か中小企業であり、現在の経営状況等を考慮すると、様々な要求をされるなどして本部との取引に不満を感じても、解約金や別のチェーンに対する再度の加盟金を負担してまで取引先を変更する余裕がない場合も多いと考えられる。」と述べられ、違約金等を背景として、加盟者が取引先を変更する可能性が低いことが指摘されている。

  このように、契約解除に伴い多額の違約金が設定されていることからすれば、解除事由は、そのような多額の違約金の支払いが正当化されるほどの悪質な事由が発生した場合等にさらに限定的に解釈されるべきであり、それが当事者の合理的な意思解釈である。

5 解除に際して従業員の労務問題・取引先との関係解消等の重大な問題が生じること

  コンビニ・フランチャイズ契約が解除されて店舗を閉鎖し事業を廃止する場合には、フランチャイジーは、数十人程雇用しているパートタイム労働者・アルバイトの労働者に対する協議を重ね、解雇等をしなければならない。そして、仮に10日後に店を閉めるとなったとしても、解雇をするのであれば、フランチャイジーが30日分の解雇予告手当を支給しなければならず、店舗営業をしていないにもかかわらず従業員全員に対して賃金を支払わなければならないことになる。被告は、実際に、原告からの本件解除の後、数十人の各従業員に解雇せざるをえない事情を説明した上で、勤務させることのできない各従業員に一定の給与を支給するなどの負担を強いられた。

また、フランチャイジー独自の仕入れ先との契約解消に向けた協議や契約解除もしなければならない。その場合には、突然の契約解除となればそれこそ損害賠償金等を負担しなければならないこともありうる。その他にも、オーナーは、店舗閉鎖に際して、様々な事務負担が強いられることになる。

  このように、フランチャイジーは、フランチャイズ契約解除に伴って、労務問題や取引会社との関係解消等の重大な問題を解消するために対応等を余儀なくされ、しかも相当の損失を被る可能性がある。

  したがって、解除事由は、よほどの悪質な事由が発生した場合等に限定的に解釈されるべきであり、それが当事者の合理的な意思解釈である。

6 10日間の催告期間が極めて短期間であること

(1)本件解除はわずか10日間の催告期間しか設けられていなかったこと

   本件の契約解除は、令和元年12月20日付催告兼通知書(甲32)によってなされ、わずか10日の猶予しか与えられなかった。この点は、加盟店基本契約書契約第47条第2項が、10日間の猶予をもって契約を解除することができると規定しているところによると思われる。

   しかしながら、前述した事情(フランチャイジーが事業廃業しなければならないことや高額の違約金を負担しなければならないこと等)に照らして、10日間の催告期間は極めて短いと言わざるを得ない。

(2)労基法の解雇予告と比較すれば、10日間の短さは顕著であること

   10日間の催告期間が短すぎることは、労働者の解雇予告と比較すれば、より一目瞭然となる。

   すなわち、使用者が労働者を解雇する際には、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、30日前に予告しない場合には30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとされている(労働基準法第20条第1項)。その趣旨は、突然の解雇による生活上の打撃を緩和し、再就職準備のための経済的・精神的余裕を付与することを目的とするものである。

しかも、コンビニフランチャイジーの場合、事業を廃止する場合には、数十人程雇用しているパートタイム労働者・アルバイトの労働者に対する協議を重ね、解雇等をしなければならない。そして、仮に10日後に店を閉めるとなったとしても、前述したように、従業員を解雇する際に、各従業員に対する説明とともに、30日分の解雇予告手当を支給しなければならず、店舗営業をしていないにもかかわらず従業員全員に対して賃金を支払わなければならないことになる。また、フランチャイジー独自の仕入れ先との契約解消に向けた協議や契約解除もしなければならないし、もしなければならない。

このように、契約解除を通告されて被告が対応しなければならない事柄は、労働者の比較にならないほど多く、どれも時間・労力・費用を要するものである(加えて前述した違約金の支払いを請求されることになる)。到底、10日の間に準備できるようなものではなく、雇用する従業員に対する賃金の支払い一つを取ってみても、10日間しか猶予が与えられないことによって、フランチャイジーに発生する損害は甚大である。

このようなことから見ても明らかなように、契約解除の猶予期間の10日は、異常なまでも短期間に設定されていると言わざるを得ない。

(3)催告期間が極めて短期間であることから解除事由は限定して解釈されなければならないこと

逆に言えば、原告と被告との解除事由は、わずか10日間の催告期間が正当化されるほど重大な事情に限定されていると解釈されるべきである。そして、、催告期間をわずか10日間とするからには、それまでにも認識されていたような従前から存した事情ではなく、よほどの重大事情が新たに生じたか、あるいは初めて認識された場合に限られるべきである。さらに、本件の場合、被告からは、催告期間中に、原告に対し、改善に向けて努力する意向、原告と真剣に相談して意思疎通を図りながら改善工夫に努めたい旨の意向が示されていた(甲36)。原告は、そのような被告からの申出があったにもかかわらず、これを無視して解除したものであり、かような被告の申入れを無視することが正当化されるほどの重大な事情があって初めて解除事由があると解釈されなければならない。

7 小括

  このように、被告は店舗開店に際して多額の開業資金を投入し相当長期間の経営を予定していること、被告は店舗経営の基盤をほとんど原告に依存していたこと、契約解除に際して高額の違約金が設定されていること、解除に際して従業員の労務問題・取引先との関係解消等の重大な問題が生じること、10日間の催告期間が極めて短期間であること及び被告の申入れを無視したこと等から、解除事由は限定的に解釈されなければならず、それが当事者の合理的な意思解釈である。

以上